2021-01-01から1年間の記事一覧

自分の薬をつくる

今まで見えないふりを決め込んできたあらゆる問題が、コロナ禍によって一挙にあぶり出されている。これまで減少傾向にあった自殺者がこのコロナ禍で増加に転じ、とりわけ女性の自死が際立って増えている。女性の自死が多い一つの要因は、男性に比べ非正規雇…

赤いスイートピーは存在しない

1970年代の国民的スーパーアイドル・山口百恵がわずか21歳で突如として引退を発表。1980年に開かれた日本武道館でのライブで「さよならの向う側」を披露し、マイクをそっとステージに置き舞台裏へと消え去った。 そのマイクをかっさらうかのように同年デビュ…

絶望に慣れぬための「メメント・モリ」

アルベール・カミュの小説『ペスト』が昨年来、新型コロナウイルスの猛威に晒 (さら) された国々で突如としてベストセラーになった。 不穏なネズミの大量死から招かれたペストが、次第に社会の隅々までをも覆い呑み込んでいく様を克明に描いており、コロナ禍…

断ち切れない料亭政治

かつて料亭政治という言葉があった。議員宿舎にほど近い港区・赤坂などには料亭街と呼ばれる一角があるが、文字通り料亭で行われる政治家同士の密会である。国会の審議を通さず、誰にも知られることなく秘密裡に政治的決着がつく──。そんな密室政治を揶揄 (…

望郷の念とともに帰ってきた田中将大投手

小さな頃からプロ野球の熱烈なファンだった。セ・パ両リーグのプロ野球選手名鑑を穴があくほど兄弟で読み、ゲーム「実況パワフルプロ野球」は開幕に合わせてペナントモードに突入。弟にいたってはリアルさを追求しようと、あえて自分でプレイせず、コンピュ…

小島秀夫が紡ぐ黙示録「デス・ストランディング」

ゲームクリエイター・小島秀夫氏による完全新作「デス・ストランディング」を遅ればせながらプレイしている。 本作は、未曾有 (みぞう) の現象によって荒廃した北米大陸が舞台。人々は、触れたものの時間を急速に進めるという特性を持った〝時雨 (ときう)〟…

ニュースはつくられる

二度目の緊急事態宣言から約三週間が経過した。 コロナ禍にあって、物事の真偽のほどについて自分の眼で見て確かめることができない歯がゆさがあり、どこかすべての被写体がぼやけたように映る。この一年、コロナ関連の報道を浴びるように摂取してしまった。…

ドレス効果を履き違える受け子たち

会社でドレスコードが撤廃されてから早一年。着ていく服やコーデに頭を悩ませる毎日だ。ドレスコードが撤廃されてもなお、スーツをかっちり貫く上司もいれば、私服でゆったり仕事をこなす同僚も多い。そんな中、私は独特のサイクルを貫いている。月・火はス…

三位一体改革で切られる福祉

あの毒蝮三太夫 (どくまむしさんだゆう) がとにかく毒づきまくっている。それも老人に対してではない。NHKに対してだ。 あの江戸っ子口調で「そこのババア、まだ息してるか?」「おい、死ぬのを忘れちゃったんじゃねーのか」「俺に会うために、髪を整えてき…

主を失った食器

出典:上田市立博物館 - 箱膳 (https://museum.umic.jp/hakubutsukan/collection/item/0112.html) 父方の祖母は昭和一桁世代であり、今も93歳ながら元気に生きている。そんな昭和一桁世代のおばあちゃん。手の動きがおぼつかないほどには当然ながら年老いて…

子どもの悩みに真剣に悩む大人がいるということ

2016年4月より放送が始まったTBSラジオの月曜日から木曜日の帯番組『伊集院光とらじおと』は私の大のお気に入り。放送開始以来、一度たりとて聞き逃さなかった番組であり、私にとって日々を生きる糧 (かて) となっている番組だ。いよいよ今週、放送から1000…

父、亡くなる

父が亡くなった。 あまりにも憐れだった。今はまだ気持ちをうまく言葉にできない。けれども、私が幼い頃から父に感じてきたあの気持ち。それが今、自分の中に息づいていることを確実に感じ取っている。私の心根にできた皺の彫りはいよいよ大きくなり、深く陰…

水曜日のダウンタウンで満たされる知的好奇心

今、テレビプロデューサー・藤井健太郎さんの活躍に目が離せない。 『リンカーン』『ひみつの嵐ちゃん!』などの人気番組のディレクターを経て、その後、『クイズ☆タレント名鑑』『テベ・コンヒーロ』など自身が立ち上げたバラエティ番組の演出・プロデュー…

試験と悪夢

いわゆる暗記重視から思考力・判断力・表現力重視の出題形式に変わった「大学入学共通テスト」が全国一斉に始まった。共通一次、センター試験に続く新しい制度で、実に31年ぶりの改革である。センター試験であればいわゆる「傾向と対策」がある。過去問を徹…

だから僕は灯火が消えないように今歌う

数ある音楽番組の中でもテレビ朝日『関ジャム 完全燃SHOW』ほど独創性豊かな番組はないだろう。紹介する楽曲は洋の東西を問わず、ジャンルの垣根を超え、コード進行に分け入り、残膏賸馥 (ざんこうじょうふく) たる詩文に今日 (こんにち) 的な解釈を与えてい…

御神籤とガチャ

東京に居着いてからしばらくはお正月は都内で過ごすことが多かった。元日には友人と揃って初詣に出掛け、神社を参拝した。 「吉凶は糾 (あざな) える縄の如し」と先人がいうように、一生を通しての運気の乱れはありそうだ、という不文律は、それなりに長く生…

歴史探偵・半藤一利さんが亡くなる

昭和史と太平洋戦争の研究で知られたノンフィクション作家の半藤一利さんが老衰で亡くなった。90歳だった。 東京の下町・向島 (むこうじま) 生まれ。15歳で東京大空襲を経験したが、九死に一生を得た。焼夷弾は防空演習(火たたきやバケツリレー)で絶対に消せ…

鋼のごとき民主主義?

先の大統領選挙の結果を覆そうとトランプ大統領とその一派らが企てた連邦議会襲撃事件について、俳優で元カリフォルニア州知事であり、共和党員でもあるアーノルド・シュワルツェネッガー氏が、一つの動画メッセージを発した。 1938年11月に起きたナチスによ…

赤ちゃんの泣き声聞こえぬ部屋の片隅で

今の場所に引っ越してから一年余が経つ。私の住む街は子育て世代に優しい自治体として知られ、若い世代で活気に溢れる街だ。もっとも自身の住む場所は駅チカであることも手伝ってか乳母車 (うばぐるま) に乗った赤ん坊を見かけることはあっても、その泣き声…

長く愛用し続けたメガネをついに手放す

昨年からファッションに対して強く興味を惹かれるようになったが、ついに今日、念願のメガネの新調を果たした。鏡越しに自分の機嫌を伺いながらあれこれ思案するのが不得手で、唯一、手入れを怠っていたパーツだ。大学時代、バイト先のスーパーマーケットで…

ビッグ・リトル・ファームはノアの方舟となるか

昨日、ドキュメンタリー映画『ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方』を鑑賞した。 環境問題を主題とする映画の中でこれほどまでに身を乗り出して食い入るように見入ったのは初めてかもしれない。 自然を愛する映像作家の夫・ジョン・チェスター…

世界をミスリードしたトランプ大統領の敗北宣言

トランプ大統領は1月7日、自身のTwitterにて「(1月)20日には新政権ができる。円滑な政権移行に傾注する」と述べ、これまで拒否し続けてきた敗北宣言を初めて行った。通例であれば敗北宣言は大統領選直後に行われ、敗者は勝者に祝意を伝え、引き裂かれた米国…

禁忌「兵力の逐次投入」で弥縫策をあてがう日本

新型コロナウイルスの感染爆発を受け、ついに本日、一都三県に緊急事態宣言が発出されることとなった。時既に遅し、と思うのは私だけではないはずだ。飲食店への集中的な対策と夜間だけに限定した外出抑制策という貧弱な組み合わせである。ロックダウンはま…

漫才をルーツから遡る

年が明けてなお、旧年を引き摺るようで恐縮だが、年の瀬迫る年末を彩る一つといえば、M-1グランプリ。若手漫才師にとっては一世一代の賞レース。その頂きを目指し、約5000組がしのぎを削るガチンコ対決のおばけ番組だ。 毎年チェックを欠かさない私だが、そ…

日記を書くことは表現者として暮らすこと

新年から一念発起、日記をつける日々が続く。いつの年でも松の内を過ぎればお屠蘇 (とそ) 気分は抜ける。高浜虚子もこう詠んでいる。 松過ぎの又も光陰矢の如く──高浜虚子 正月も松を過ぎればまた慌ただしい日常に押し戻される。日記が三日坊主で終わらなか…

今も色褪せぬ現代版すごろく「桃太郎電鉄」

日本の伝統的な正月の過ごし方といえば、やはりすごろく(双六)。色とりどりの盤上にさいころを散らし、行きつ戻りつその結果をめぐって泣き笑いしたものだ。 その双六盤は今テレビゲームの中に舞台を移した。 コンシューマーゲームのリリースとしては約10年…

雪深き地に生まれた一茶

現在の長野県信濃町近くに生まれた俳人・小林一茶は豪雪地帯に生まれついたこともあってか、雪にまつわる句が大変に多い。 雪行け行け都のたはけ待 (はべ) おらん──小林一茶 豪雪の恐ろしさを知らぬ無責任な都会の雪好きを揶揄し、都 (みやこ) の戯 (たわ) …

帰省叶わぬエッセンシャルワーカーたち

「帰省」を辞書で引くと、「夏期休暇などに、故郷に帰ること。故郷に帰り父母の安否を問うこと」とある。さらに「省」を辞書で引いてみると、「故郷の父母を訪問する」とある。 父母の安否を問うことだけがしかし「帰省」ではない。 新型コロナへの感染が130…

正月らしくなくとも

今年の初詣はいつもとは違う初詣を迎える予定の人が多いかと思う。人によっては幸先詣を行った方も多いかもしれない。幸先詣 (さいさきもうで) は旧年に初めて耳にした言葉である。 旧年からのコロナ禍を受けて、全国各地の神社や寺院が参拝客の密状態を避け…

愛が足りないこんな馬鹿な世界で

2019年末から始まった新型コロナウイルスの流行は〝密〟であった社会を断ち切った。星野源は紅白歌合戦で初披露した「うちで踊ろう (大晦日)」にて、この新たに出来 (しゅったい) した世界を「愛が足りないこんな馬鹿な世界」と表現した。 性愛を含むすべて…