三位一体改革で切られる福祉

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あの毒蝮三太夫 (どくまむしさんだゆう) がとにかく毒づきまくっている。それも老人に対してではない。NHKに対してだ。

あの江戸っ子口調で「そこのババア、まだ息してるか?」「おい、死ぬのを忘れちゃったんじゃねーのか」「俺に会うために、髪を整えてきたの? だったら顔もどうにかしてよ」などなど、憎まれ口を叩きながらも老人たちに愛のあふれる (?) 毒舌トークかます毒蝮三太夫。そんな彼が52年間続けるラジオ『ミュージックプレゼント』とは別に、ライフワークとして出続ける番組がある。開始以来、司会として14年間出演し続けてきたEテレ「介護百人一首」だ。2021年1月27日の再放送を最後に番組の歴史に幕を下ろすこととなった。

毒蝮三太夫は「悩んでいる人がごまんといる今、やめるべき番組ではない」と語り、至極まっとうな意見で鋭くNHKの姿勢を問うている。番組スタッフからは「予算と人手がかかるから番組を打ち切ったのだ」と打ち明けられたという。予算と人手の言い訳だけで乗り切れるようなら、年末の紅白歌合戦だってその番組の改廃に対して議論の俎上 (そじょう) に載せるべきだろう。

それこそ民放では人手不足でとても手が回らないような「福祉」をテーマに熱心に番組制作を続けてきたNHK。「三位一体改革」の先鋒がこれかと思うと、先が思いやられるばかりである。

そもそもNHK三位一体改革総務大臣である高市早苗氏が言い出した肝いりの案件だ。総務省に首根っこを押さえられているNHKは、2021~2023年度の経営計画で、受信料の値下げと、BS/ラジオのチャンネル削減を表明。衛星契約増加などによる予算の肥大化から縮小へと舵を切ることとなったが、「受信料」が国民の負担金であるがゆえに「業務」の合理化・効率化を推し進め、視聴者へと適切な利益を還元するための「ガバナンス」が確保されるような経営体制へと見直す──。「受信料」「業務」「ガバナンス」こそが三位一体改革の骨子である。

その結果、合理化・効率化の先鋒で早速切られたのは福祉である。福祉をこうもあっさりと切り捨てるあたり、新自由主義者の〝面目躍如〟である。

視聴者にとっても本当にこの改革は自身にとって良いものなのかどうか今一度再検討してほしい。仮に受信料が10%値下げになったとしても、各家庭の負担減は衛星契約でわずか月約220円である。それと引き換えに、それこそ民放では予算不足と人手不足でとても手が回らない福祉、医療、教養、紀行、語学、海外のストレートニュースといったジャンルの番組がなくなることが本当に良いことか。

まして世はまさにアーカイブ時代である。とにかく視聴率などに囚われず黙々と作る手を止めさえしなければ良質な番組はアーカイブされ、いつか必要なときに必ずあなたの目の前に現れる。先の「介護百人一首」もそうだ。

三十一文字 (みそひともじ) は時代を超越して、介護に生きる明日の我々に語りかけるだろう。最後に「介護百人一首」で取り上げられた何作かを紹介して終わりたい。

 

進みゆく病魔に耐えるせつなさを短歌にすればすべて字余り

今日は母昨日は娘明日は何介護の日々は名優となれ

ぶらり旅人は徘徊 (はいかい) と言うけれどただ花束を妻に買うだけ

(了)

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