断ち切れない料亭政治

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かつて料亭政治という言葉があった。議員宿舎にほど近い港区・赤坂などには料亭街と呼ばれる一角があるが、文字通り料亭で行われる政治家同士の密会である。国会の審議を通さず、誰にも知られることなく秘密裡に政治的決着がつく──。そんな密室政治を揶揄 (やゆ) してこう言われた。与野党の責任者が相手の顔を立てつつ、落とし所を相談することもあり、ときには強行採決や審議拒否さえも秘密裡に決められていたという。

ここでいう与野党の責任者とは、議院運営委員会理事であったり、国会対策委員会委員長、あるいは幹事長クラスの人物。与党内では、野党と話をつけられるのが有能な政治家と言われ、俗に言う〝国対族〟を生む要因の一つともなった。

1993年に誕生した非自民連立政権が担ぎ出した細川護熙 (もりひろ) 氏は当時、55年体制の終焉 (しゅうえん) に楔 (くさび) を打ち込まんとして、この料亭政治を廃する宣言を行った。だが結局のところ、料亭政治はホテルのレストランでの会食や会員制バーに場所を変えただけに留まった。

料亭政治、ホテル会食はそれでもまだ品があるような気もする。そんな中に飛び込んできたこのニュース。会食どころかついにはキャバクラや銀座クラブで遊び呆 (ほう) ける議員まで飛び出した。公明党の幹事長代理・遠山清彦氏、自民党国会対策委員長代理・松本純氏の辞任・離党ドミノの騒ぎである。やはりというべきか、両名ともかつて料亭政治において責任者とされた役職に当たっている。

コロナ禍にあって、本来は国民に移動の自由の制限をお願いする建前上、行動で範を垂れるべき政治家らの綻 (ほころ) びがここまで酷いとは。とはいえ、人の振り見て我が振り直せ、である。

ところで、話はややそれる。銀座クラブには手元不如意 (ふにょい) のためとんと行ったことはないが、キャバクラには何度か通ったことがある。何度か通い詰め思ったのは、水商売に携わる彼女らの教養の無さや話術の低さである。その教養の無さに愕然とした覚えがあり、それからしばらくは訪れていない。銀座クラブのママなどは「キャバクラなどしょんべん臭い小娘と一緒にするな」と憤 (いきどお) るかもしれないが、悪いが似たようなものだと思う。

今でもそういった店則 (てんそく) があるかは知らないが、銀座クラブに所属するホステスは、週一日は同伴出勤がノルマになっていたりするという。ノルマをクリアできなければ、場合によって、取り分にペナルティさえあるというが、ある程度の社会的ステータスを持つ男からすれば、そのホステスに教養さえあれば自然と惹き付けられると思うのだが、どうだろうか。

水商売の代表格たる花魁 (おいらん) に付く太客 (ふときゃく) といえば、武士、豪商、文化人だった。彼らの相手をする以上、教養も当然必要であり、幼少 (禿:かむろ) の頃から徹底的に教養や芸事 (げいごと) を叩き込まれる。古典、書道、茶道、和歌、箏 (そう)、三味線、囲碁……。現代でも松本清張が描く『黒革の手帖』の銀座クラブのホステス・原口元子などは教養溢れる人物の筆頭だ。私の中ではあの原口元子こそ教養溢れる水商売の女なのだ。あの頃のキャバクラなら通いたかった、と思う。

でっぷりとした腹まわりの、デリカシーに欠けた下卑 (げび) た笑いをするガハハなオヤジであれば、ただ自分の話を愛想笑いで聴いてくれるだけでも満足だろう。俗にいう接客の「さしすせそ」である。しかし、こちとらそんなものは求めていないのである。おっぱいだけで心が動かされるほど下半身で生きてはいないのである。

松本純氏もこの期 (ご) に及んで「閉店後のクラブで陳情伺いをしていた」と言うが、仮に本当だとすれば、今も密室政治がこうして幅を利かせている証拠であろう。銀座クラブのママもこういう政治的な嗅覚が鋭いところだけは、夜の街に生きる女・原口元子然としている。(了)

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