夏も近づく八十八夜 野にも山にも若葉が茂る

きょうのことば

夏も近づく八十八夜
野にも山にも若葉が茂る
「あれに見えるは茶摘みぢやないか
茜襷 (あかねだすき) に菅 (すげ) の笠」

──『茶摘み』文部省唱歌より

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  四月二〇日は、こよみの上では春の最後を告げる二十四節気穀雨です。百穀を潤し、穀物の成長を助ける慈雨が降り注ぐ季節。そして穀雨も明ければいよいよ「立夏」。さて、その穀雨から立夏までのこの時期、最も慌ただしく時を過ごすのが茶農家です。雑節にいわゆる「八十八夜」なるものがあります。春の始まりを告げる「立春」から起算してちょうど八十八日目にあたる日を指し、日本の風土では遅霜が降りてくるとされ、茶農家はその防霜対策にてんやわんやの大忙し。

 とりわけ、この八十八夜に摘んだ茶は極上物として珍重されます。「きょうのことば」でも紹介したように歌に名高い茶摘みの季節。茶の名産地・静岡でも、明日から静岡茶市場 (静岡市葵区北番町) にて新茶初取引が始まる予定です。

 「芸術は爆発だ!」で有名なあの岡本太郎の母堂であられる小説家・岡本かの子。彼女は随筆『新茶』で一番茶を賞味し、このような感想を漏らします。

「あの年寄りじみた、きつい苦みがないし、晴々しい匂ひがするし、茶といふよりも、若葉の雫を啜るといふ感じである。」

 ──若葉の雫を啜る。作家には舌上の味蕾にさえ、文才が宿っているようです。

 

 収穫された茶は加工の工程において、千変万化します。同じ茶葉でも発酵させれば紅茶に。そうでなければ緑茶。その中間ともいえる半発酵を施せば烏龍茶に。

 客人のもてなしには欠かせないお茶。「粗茶ですがどうぞ」。普段こそ本当に番茶やほうじ茶などといった粗茶を出してしまいますが、この時期だからこそ、客人を招いた折には、玉露で饗するのも味なものかもしれません。